要件定義の企画構想とは?失敗しない「目的地」の決め方 3つのステップ
「お客さんの要望がバラバラで、どこを目指せばいいのか分からない……」
「ようやく決まったと思ったら、後から『やっぱりあっちが良かった』とひっくり返された……」
要件定義の入り口で、そんな立ち往生をしていませんか?
いよいよ新シリーズ「要件定義編」のスタートです。
このブログではこれまで、プロジェクト管理の基本を「家族旅行」に例えて解説してきました。
まだ読んでいない方は、ぜひあわせてチェックしてみてくださいね。
さて、計画を立てたり出発式をしたりする前に、そもそも「どこへ、何のために行くのか」が決まっていなければ、旅行のしおりも作れませんし、車を出すこともできません。
要件定義とは、いわば「家族全員が満足する目的地を絞り込む作業」です。 今回はその最上流工程である「企画構想(コンセプト)」について、30年の現場経験から導き出した「失敗しない目的地選びのコツ」を解説します。
現場の「あるある」:なぜ要件定義は炎上するのか?
要件定義がまとまらない理由は、ビジネス現場と家族旅行、どちらのケースで見ても「バラバラな視点」にあります。
ビジネス現場では
各部署が自分の都合だけで「やりたいこと」を主張し、収集がつかなくなります。
- 営業部:「他社にないキラキラした新機能が欲しい!」
- 製造部:「多機能よりも、とにかく使いやすくてミスが起きない設計にして」
- 情シス部:「保守性が第一。セキュリティや運用コストが最優先だ」
家族旅行に例えると
目的地を決めようとしたとき、全員が違う方向を向いている状態です。
- お父さん:「とにかく海が見えるリゾートがいい! 豪華な食事がいいな」
- お母さん:「いやいや、静かな温泉地でゆっくりしたい。移動時間は短く」
- 子ども:「Wi-Fiが速くて、ゲームができるホテルじゃないと絶対イヤ!」
このように、関係者(ステークホルダー)の要望をそのまま全部積み上げると、予算も時間も足りなくなり、結局誰も満足しない「中途半端な旅」になってしまいます。これが、要件定義がまとまらない最大の原因です。
企画構想(コンセプト):目的地を絞り込むための「3つのステップ」
バラバラな要望を整理する前に、やるべきことが一つあります。 それは、今回の旅の「メインテーマ(ビジネス背景と狙い)」を明確に言語化することです。以下の3つのステップで、全員の目線を合わせましょう。
ステップ1:現状の課題を整理する(なぜ今の場所を離れるのか)
単に「システムを新しくする」のではなく、「今のやり方では何が限界なのか(AS-IS)」を深掘りします。ここで大切なのは、システム化そのものを目的にしないことです。 旅行なら「家でゴロゴロしていても会話が弾まない」「最近みんな疲れ気味で、このままではいけない」といった、今の場所にいられない理由(=解決したい本質的な課題)を明確にします。
ステップ2:旅の狙いを定める(どんな思い出を作りたいか)
今回の旅の「旗印(コンセプト)」を決めます。ここで、第2回以降の議論の鍵となる「具体的な前提条件」もしっかりと言語化しておくことが重要です。
- 「親孝行(日頃の感謝)」がテーマなら、豪華な食事よりも「足の悪い祖父母でも安心して過ごせるバリアフリーの宿」や「移動の楽さ」が最優先になります。
- 「アクティブな冒険(子供の成長)」がテーマなら、ホテルの質よりも「体験アクティビティ」が優先されます。
- 「安らぎ(リフレッシュ)」がテーマなら、観光地巡りよりも「静かな環境」や「温泉の質」が重要になります。
これが決まれば、全員でしっかりと共通認識を持つことができます。 その結果、豪華な食事か体験アクティビティか、といった優先順位が自然と定まる「強力な物差し」になります。
ステップ3:制約条件を共有する(予算と期限を確認する)
「10万円で1泊2日」という枠組みを最初に共有します。これがないと、全員の要望が雪だるま式に増えて予算をオーバーしてしまう「要望のてんこ盛り状態」を断ることができません。
なぜこれが「強力な物差し」になるのか?
要件定義を進めると、必ず「あれもこれも」と要望が膨みます。そのとき、この物差しがあれば「それは今回の『親孝行』というテーマに合っていますか?」と問い直すことができます。物差しがないと、声の大きい人の意見に引きずられ、目的のぼやけた「誰も喜ばないシステム」が出来上がってしまいます。
失敗を防ぐ!企画を具体化する 6つのチェックポイント
上記のステップをさらに盤石にするために、以下の要素をセットでドキュメントにまとめましょう。これが企画の「骨組み」になります。
① 問題・課題(今の場所の不満)
本来達成したい成果を阻害している要因を書き出します。「手作業が多くてミスが絶えない」「情報がバラバラで探すのに時間がかかる」など、今困っていることを具体的にします。
② 背景(なぜ今なのか)
なぜ今、このプロジェクトをやるのか。そのきっかけを整理します。「おじいちゃんが古希を迎えた(=法改正がある)」「子供が来年受験で忙しくなる(=競合他社が新サービスを出した)」など、動くべきタイミングの必然性を明記します。
③ 狙い・目的(旅の旗印)
このプロジェクトが目指す究極のゴールです。「親に感謝を伝え、家族の絆を深める(=営業利益を5%改善し、社員の負担を減らす)」といった、進むべき方向性を示します。
④ 期待効果(ベネフィット)
プロジェクト完了後のポジティブな変化です。「旅行から帰った後に家族の絆が深まり、明日への活力が生まれる(=単純作業を自動化し、戦略立案や顧客提案といった『攻めの業務』に集中できる状態)」という、得られる実質的な利益を定義します。
⑤ 制約条件(予算・リソース)
使える予算、人員、技術的な制限です。「一泊二日の予算10万円(=予算1000万、サーバーは現行品を利用)」といった超えてはいけない壁を共有します。
⑥ 活動期間(準備タイムライン)
いつまでに「行き先(要件)」を決め、いつ「出発(リリース)」するのか。「目的地を決めるのに1週間、予約に3日(=要件定義に3ヶ月、開発に半年)」という時間的な区切りを設けます。
まとめ:良い「目的地」が、良い「要件」を作る
企画構想は、要件定義という長い道のりにおける「ガイドマップの表紙」です。
- 「解決したい課題」と「旅の狙い」を情熱を持って語る。
- 「誰をハッピーにするのか(期待効果)」を明確にする。
- 「予算と期限(制約条件)」の枠組みを共有する。
この「行き先の芯」がぶれなければ、後の細かい機能選びで迷うことはありません。
次のステップ:企画を「形」に変える技術
目的地が「温泉でゆっくり」に決まったら、次は具体的に「どこの温泉宿にするか?」「どんな観光コースを巡るか?」を具体化していくステップです。
次回は、ぼんやりした企画を具体的な要件へと変えていく「要件定義の全体像:鳥の目で見る技術」についてお話しします。
最高の旅にするために、まずは「最高の目的地」を言葉にすることから始めましょう!
次の記事を読む:要件定義の全体像:企画を「形」にする4階層と鳥の目の技術
