お客様からの追加要望を断れず、いつも納期が炎上する…
どこまでが当初の範囲(スコープ)で、どこからが追加なのかが曖昧…
変更による影響範囲をどう説明すれば納得してもらえるのか分からない…

プロジェクトが進み出すと、必ずと言っていいほど「変更」の波が押し寄せます。しかし、善意でそれらすべてを受け入れていると、いつの間にか予算は底をつき、納期にも間に合わなくなります。

今回は、プロジェクトの健全性を守るための砦、「変更管理(スコープ変更)」の極意を、家族旅行の「予定外の寄り道」に例えて解き明かします。

変更管理とは「寄り道の影響」を計算すること

家族旅行で、目的地に向かって高速道路を走っているシーンを想像してください。

  • 無計画な変更: 子供が「あっちの動物園にも行きたい!」と言い出し、お父さんが影響を考えず「いいよ」と二つ返事。
  • 適切な変更管理: 子供の要望に対し、お父さんが「今からそこに行くと2時間ロスする。夕食の予約を遅らせるか、明日の午前中に回すなら可能だけど、どうする?」と、影響(インパクト)を示して判断を仰ぐ。

「無計画な変更」がもたらす恐ろしい連鎖

もしお父さんが「いいよ、なんとかなるさ」と無計画に変更を繰り返すと、旅は次のような悲劇に見舞われます。

  1. リソースの枯渇(予算)
    予定外の走行でガソリン代が跳ね上がり、楽しみにしていた豪華な夕食をキャンセルせざるを得なくなる。
  2. 納期の崩壊(スケジュール)
    動物園で遊びすぎ、宿に到着したのは深夜。チェックイン時間を過ぎており、フロントは閉まっていて野宿の危機に。
  3. 品質の低下
    時間を取り戻そうと高速道路を猛スピードで飛ばし、家族は車酔い。旅の思い出は「楽しかったこと」よりも「疲れたこと」だけになってしまう。
  4. チームの疲弊(士気)
    最初はノリノリだったお母さんも「もう勝手にして!」と怒り出し、車内の雰囲気は最悪に。

プロジェクトも全く同じです。一つの「小さな変更」は、予算、納期、品質、そしてメンバーの信頼関係を同時に破壊する破壊力を持っています。だからこそ、変更そのものを拒むのではなく、その「代償」を正しく見積もる必要があるのです。

忍び寄る恐怖「スコープクリープ」

「これくらい、ついでにやっといて」という小さな要望が積み重なり、気づけばプロジェクトが巨大化して収拾がつかなくなる現象をスコープクリープ(Scope Creep)と呼びます。

旅行で言えば、「ちょっとコンビニに寄って」「あっちの景色も写真に撮りたい」「やっぱり別の道の駅へ」という数分の寄り道が積み重なり、気づけば数時間の遅れになっている状態です。

これに立ち向かうには、常に「プロジェクト計画書」という原点に立ち返る必要があります。

なぜ、計画書に立ち返る必要があるのか?

それは、計画書がプロジェクトにおける「唯一の正解(ベースライン)」だからです。

  • 「ついで」の境界線を引く: 計画書に「今回の目的はこれ、範囲はここまで」と明記されているからこそ、「それは当初の予定にはなかった追加の寄り道ですね」と客観的に指摘できます。
  • 影響の大きさを証明する: 「15時までにチェックインする」という計画があるから、「30分の寄り道が致命的な遅れになる」という説得力のある説明が可能になります。
  • 言った・言わないを防ぐ: 計画書という「合意した証跡」があることで、感情的な議論ではなく、事実に基づいた建設的な交渉が可能になります。

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計画書の作り方はこちらプロジェクト計画書の書き方|全10項目を「旅行のしおり」で徹底解説 ※計画書は、旅の「寄り道」を判定するための唯一の基準(ベースライン)となります。

変更管理の4つのステップ(寄り道交渉術)

実際に変更要望が来たとき、プロのPMは以下の手順で交渉を進めます。

① 変更の受付

要望を口頭で済ませず、必ず「正式な依頼」として記録に残します

【例え】 「どこに行きたいか」だけでなく「なぜ行きたいか」をメモし、家族全員に共有する。
【実務】 変更要求書(CR: Change Request)を起票し、変更内容と背景を明確にする。

② 影響分析

その要望を叶えるために、何が犠牲になるかを計算します

【例え】 寄り道によって増える「ガソリン代」と「到着の遅れ」を具体的に算出する。
【実務】 追加工数、スケジュール遅延、コスト増、他機能への影響を可視化する。

③ 意思決定

分析結果をステークホルダーに提示し、実行するかどうかを正式に判断します

【例え】 「追加で5,000円かかるけど、それでも行く価値があるか?」を相談して決める。
【実務】 分析した影響範囲を提示し、予算追加や納期調整について顧客や上司の承認を得る。

④ 計画更新

行くことが決まったら、しおり(計画書)を最新の状態に書き換えます

【例え】 行き先が増えた分、到着予定時刻を修正し、新しいルートを全員に配り直す。
【実務】 WBSや予算管理表、マスタースケジュールを公式に更新し、ベースラインを引き直す。

変更管理を成功させる「魔法の代案」

要望をただ「できません」と突っぱねると、角が立ちます。そんな時は、旅行の達人のように代案(トレードオフ)を提示しましょう。

案1:「トレードオフ(交換条件)」を出す

何かを追加する代わりに、何かを減らす提案です。

【例え】 「新しく動物園に行くなら、代わりに時間がかかる水族館を諦めようか?」
【実務】 優先度の高い機能Aを追加する代わりに、優先度の低い機能Bを今回の範囲から外す。

案2:「フェーズ分け(延期)」を提案する

「やらない」のではなく「今ではない」という整理です。

【例え】 「今回は時間が足りないので、帰りに寄るのではなく、次回の旅行のメインにしよう」
【実務】 今回のリリースには含めず、次期開発フェーズや保守開発の枠組みで対応する。

案3:「リソースの調整(コスト・納期への転換)」を示す

制約条件そのものを動かす交渉です。

【例え】 「どうしても今日行きたいなら、有料道路を使って時間を短縮して夕食代を少し削ろう」
【実務】 納期を死守するなら追加予算で人を増やす。予算が固定なら納期を延ばすよう調整する。

まとめ:計画は「変わるもの」として向き合う

プロジェクトという旅において、変更は避けられない「天候の変化」のようなものです。大切なのは、変わらないことを願うのではなく、「変わったときにどう判断し、どう立て直すかのルール」をチームで持っておくこと。

  1. ベースライン(計画)を基準にする(寄り道かどうかを判定する)
  2. 影響を可視化する(代償を数字で見せる)
  3. 代案を提示する(NOと言わずにトレードオフで解決する)

予定外の寄り道が、単なる「トラブル」になるか、それとも旅を彩る「最高のスパイス」になるかは、あなたの変更管理というハンドル捌きにかかっています。

次のステップ:最高の旅だったね、と笑って「帰宅」しよう

あらゆる変化を乗り越え、ついにお土産を抱えて家(ゴール)が見えてきました。しかし、旅行は「玄関に着くまで」が旅行です。

車に荷物を置きっぱなしにしたり、泥だらけの靴をそのままにしたりしては、せっかくの楽しかった思い出も台無しになってしまいます。次回の記事では、プロジェクトのフィナーレを飾る「プロジェクト終結と振り返り」の極意を解説します。

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「このチームでまた旅をしたい」。メンバーにそう思ってもらえてこそ、PMとして最高の成功と言えます。感動のゴールに向けて、最後の仕上げをしましょう!

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