リスクと課題って、結局どちらも『問題』のことじゃないの?
トラブルが起きてから対処するのでは遅すぎるの?

プロジェクトを「家族旅行」に例えるなら、リスク管理は「天気予報をチェックして傘を持っていくこと」であり、課題管理は「実際に降り出した雨にどう対処するか決めること」です。

この2つを混同していると、常にトラブルに追いかけ回される「火消し」ばかりのプロジェクトになってしまいます。今回は、30年の現場経験から、プロジェクトの防御力を劇的に高める「備え」と「対処」の極意を解説します。

「リスク」と「課題」の決定的な違い

まずは、この2つの言葉の定義を整理しましょう。

項目リスク (Risk)課題 / イシュー (Issue)
時間軸未来(まだ起きていない)現在(すでに起きている)
性質不確実な「可能性」直面している「事実」
例え「雨が降るかもしれない」という予報「今、土砂降りで動けない」という状況
対応予防策、代替案の準備解決策の実行、影響範囲の特定

リスクは「不安」を「計画」に変えるもの

「もしかしたら○○になるかも」という不安をそのままにせず、「もし起きたらこうしよう」と事前に決めておくのがリスク管理です。

課題は「混乱」を「タスク」に変えるもの

目の前のトラブルに対して、「誰が、いつまでに、どうやって解決するか」を明確なタスク(宿題)として管理するのが課題管理です。

リスク管理:予報を見て「傘」を準備する

リスク管理の目的は、トラブルが起きた時のダメージを最小限にすることです。

① リスクを洗い出す(特定)

旅行の前に、「道が混むかも」「子供が飽きるかも」「お目当ての店が休みかも」と、不安要素を書き出します。

② リスクを評価する(優先順位)

すべての不安に備えるのは不可能です。

  • 影響度: 起きたらどれくらい痛いか?(例:パスポート紛失 = 致命的)
  • 発生確率: どれくらい起きそうか?(例:夕立 = 高い) この2軸で、特に対策が必要な「重要リスク」を絞り込みます。

課題管理:降ってきた雨を「どう凌ぐか」決める

すでに問題が発生してしまったら、速やかに「課題管理台帳」に載せて追跡します。

課題管理の3つの必須項目

  1. 期限(When): いつまでに解決しなければならないか?
  2. 担当者(Who): 誰がボールを持っているか?
  3. 状態(Status): 未着手、対応中、完了のどこか?

解決への「エスカレーション」

自分の力だけで解決できない課題は、早めにPMやリーダーに相談しましょう。前回の記事で紹介した「プロジェクト標準」で決めた連絡ルール(例:1日悩んで解決しなければ報告)が、ここで生きてきます。

リスク・課題管理台帳の書き方:誰を責めるかではなく、どう解決するか

リスクや課題を記録し、チームで共有するためのツールが「リスク・課題管理台帳」です。これはプロジェクトの「健康診断書」と言えます。

実務のイメージが湧きやすいよう、「家族旅行」の役割やタスクに例えて台帳を埋めてみましょう。

ID種類内容(何が起きているか/そうか)影響度対策・状況担当者期限
R01リスク当日の渋滞の可能性1時間早めに出発するお父さん(PM)5/25
I01課題お店が定休日だった近隣の代替店を探す長男(メンバー)5/26 12:00

【プロのコツ:心理的安全性を守る】 管理台帳を「ミスの指摘リスト(誰が悪いか)」にしてはいけません。台帳は、「チーム全員で解決すべき宿題リスト」として運用しましょう。

まとめ:バッドニュース・ファーストの文化が最強の防御

リスク管理や課題管理は、単なる事務作業ではありません。それは「隠し事をせず、早めに相談し合える」というチームの信頼関係そのものです。

  1. 「もしも」を想定し、傘を持つ(リスク管理)
  2. 「今」起きている障害物を整理する(課題管理)
  3. 「バッドニュース」ほど最速で共有する(心理的安全性の確保)

「雨が降っても、みんなで乗り越えられる」。そう思える強固なチーム文化こそが、プロジェクトという旅を完遂させるための最強の武器になります。

次のステップ:いよいよ「出発式(キックオフ)」へ!

お疲れ様でした! 目的地(目的)を決め、詳細な旅程(スケジュール)を組み、役割(体制)を分担し、情報の道筋(コミュニケーション)とトラブルへの備え(リスク管理)まで、すべての準備が整いました。

あとは、あなたの家族(プロジェクトメンバー)を集めて、高らかに出発を宣言するだけです。次回の記事では、チームが一つになって走り出すための最重要イベント「キックオフ会議」の進め方を解説します。

  • 事務連絡で終わらせない! メンバーのやる気を最大化する1時間のデザイン術
  • なぜ、PMが語る「旅の目的(想い)」が成功の鍵を握るのか?
  • 今日から仲間。心理的安全性を一瞬で高めるアイスブレイクの極意

単なる「打ち合わせ」を、伝説の「出発式」に変える。PMとして最も腕が鳴る瞬間に向けて、最後の仕上げをしましょう!

次の記事を読む:キックオフ会議の進め方|プロジェクトを成功させる「出発式」3つの鉄則

【完全版】プロジェクト管理の基本を「旅行の例え」で学ぶ|全12回・初心者向け完全ガイドプロジェクト管理の基本と実践を「家族旅行」に例えて全12回で徹底解説。PMBOKの基礎からWBS、RACI、リスク管理、変更への対応、役割分担、そして終結まで、30年の現場経験に基づく「失敗しないPMのコツ」を網羅した完全ガイドです。...
ABOUT ME
hidechi
メーカーに入社し、その後IT部門が分社独立、情報システムエンジニアとして30年以上勤務しています。これまで多くのプロジェクトに携わり、それらの経験から得た知見を覚え書きとして記録することで、厳しい現場で奮闘しているSEの皆さんの一助となれば幸いです。