「旗印は決まった。反映させる具体策が分からない……」
「いきなり画面デザインの議論が始まり、本質が置き去りになっている……」

要件定義の入り口で、そんな「何から手をつければよいか分からない」状況に陥っていませんか?

前回は、[要件定義シリーズ第1回:企画構想]にて、「なぜこのプロジェクトをやるのか?」という旗印を立てる重要性を解説しました。しかし、旗印だけではシステムは作れません。

今回は、その旗印をエンジニアがスムーズに実装へ落とし込め、ユーザーが納得できる「要件」へと分解していく全体像を解説します。細かい「枝葉」の議論に振り回されず、ビジネス目標という「幹」を太く育てるための「鳥の目」を養いましょう。

要件定義の「4つの階層」:企画構想を具体化するプロセス

要件定義は、一気に詳細を決めるのではなく、上から下へ「だんだんと情報の解像度を上げていく」4つの階層で整理すると非常にスムーズです。

一歩ずつ具体性が増していく連鎖の流れを、家族旅行の例で見ていきましょう。

① ビジネス要件(旅の目的・コンセプト)

この階層は、前回解説した「企画構想」そのものです。ここを起点として、すべての要件が形作られていきます。

  • 家族旅行なら: 「親孝行のために、三世代が温泉でゆったり過ごしたい」という目的地選び
  • システム開発なら: プロジェクトの「存在意義」です。前回深掘りした「現状の課題」「背景」「狙い・目的」がここに集約されます。これが定まることで、「次にどんな過ごし方(業務)をすべきか」の指針が決まります。

② 業務要件(観光コース・現地での過ごし方)

この階層は、①で決めたビジネス要件(目的)を達成するための具体的な「一日の流れ」を定義するものです。

  • 家族旅行なら: ①の「親孝行」を叶えるために、「10時に出発し、祖父母の好物を食べ、早めに宿で寛ぐ」という具体的な一日の行動シナリオを描きます。
  • システム開発なら: ①のビジネス目標を達成するために、ユーザーが「いつ」「どんな手順で」仕事をするのかという業務フロー(To-Beプロセス)を定義します。この「人の動き」が決まることで、「それを助けるためにどんな道具(機能)が必要か」が見えてきます。

③ 機能要件(移動手段・必要な道具)

この階層は、②で描いた業務フロー(流れ)をスムーズに支えるために必要な「具体的な手段」を決めるものです。

  • 家族旅行なら: ② で「ゆったりした移動と食事」を実現するために、「乗り降りが楽な大型ミニバン」や「座敷のあるレストラン」といった具体的な道具や設備を選びます。
  • システム開発なら: ②の業務フローを回すためにシステムが備えるべき能力です。「売上計算」「検索」「データ保存」など、開発者が実装レベルで定義するものです。これらが揃うことで、「その道具を安心して使い続けるための品質(非機能)」への要求が生まれます。

④ 非機能要件(安全・品質・基盤)

この階層は、③で揃えた機能(道具)を、どんな状況でも安心して使い続けるための「土台や品質」を約束するものです。

  • 家族旅行なら: ③の「車や宿」を安全に利用するために、「燃費の良さ」「ロードサービスの充実」「アレルギー対応の徹底」といった品質の約束を交わします。
  • システム開発なら: 性能、セキュリティ、保守性など、システムの「安定稼働」を左右する要素です。機能がどれだけ優れていても、ここが欠けるとビジネスの継続が危うくなります。

なぜ「業務要件(観光コース)」を飛ばしてはいけないのか?

実務で最も多く、そして致命的な失敗は、②の業務要件を議論せずに、いきなり③の機能要件(「こんな画面が欲しい」「最新のAIを使いたい」)の話を始めてしまうことです。

エピソード:手段が目的化した悲劇

ある家族旅行で、お父さんが最新技術へのこだわりを爆発させ、「最新の超高性能スポーツカー(=最先端のAIレコメンド機能)」を使いたいと言い出したとしましょう。 確かに「最新」「高性能」という言葉は魅力的です。しかし、今回の目的(ビジネス要件)は「三世代での親孝行」です。 具体的に②の業務要件(観光コース)を検討してみると、「足の悪い祖父母を乗せて、ゆったりと温泉地へ向かうこと」が必須であることが分かりました。スポーツカーでは全員乗れませんし、車高が低すぎて祖父母の乗り降りは不可能です。

「業務(どう過ごすか)」が定義されていない状態で「機能(何を使うか)」を決めてしまうと、完成間近になって「これでは現場の業務が回らない!」という大規模な手戻りが発生します。

正しいステップは以下の通りです。

  1. 目的(親孝行) を再確認する
  2. プロセス(移動の負担を減らし、ゆったり会話する一日の流れ) を描く
  3. 手段(スライドドアで乗り降りが楽な大型ミニバン、バリアフリーの宿) を選ぶ

この「上から下へ」の順序を守ることこそが、要件定義における最大の成功報酬(手戻りゼロ)をもたらします。

全体像を「鳥の目」で見るための3つの技術

リーダーが現場の喧騒に巻き込まれず、常に冷静にプロジェクトをリードするために必要な「鳥の目」の視点を深掘りします。

① 垂直の視点:目的と手段の「一貫性」を問う

議論が細かい技術仕様に偏ったとき、リーダーは常に問いを投げかけなければなりません。

  • 「その機能は、第1階層の『ビジネス目標』の達成にどう寄与しますか?」
  • 「そのボタンの配置は、第2階層の『現場の業務フロー』を改善しますか?」

こうした問いかけが必要なのは、要件定義書のすべての項目は、必ず上位の階層に紐付いている必要があるからです。要は「すべての手段には、目的がある」という状態を維持することです。

② 水平の視点:業務フローの「連続性」と「例外」を網羅する

「食事の予約は完璧だ」と喜んでいても、鳥の目で見れば「宿からレストランまでの移動手段が抜けている」ことに気づけます。 業務フロー(To-Beフロー)を描く際は、ハッピーパス(通常の手順)だけでなく、エラー時や例外時の処理も水平に眺めます。「もし雨が降ったら?」「もし渋滞したら?」という例外系を業務フローの段階で考慮しておくことで、システム完成後のトラブルを激減させることができます。

③ 枠組みの視点:制約条件という「土台」を管理する

どんなに魅力的な追加要件が出ても、前回決めた「予算・期限・リソース」という枠(制約条件)を無視することは許されません。

「それ、すごくいいアイデアだね!でも、それを追加するなら予算を今の倍にするか、旅行の日程をもう1日増やさないと無理そうなんだ。今回の予算とスケジュールのままでいくなら、何か別の計画を諦めて入れ替える?それとも今回は我慢する?」

この冷静な「トレードオフ(取捨選択)」の判断こそが、リーダーの最も重要な役割です。

要件定義の進め方:3つのフェーズ

全体像を把握した上で、実務は以下のフェーズで進んでいきます。

  1. 発散フェーズ(ヒアリング): 関係者から要望を出し尽くしてもらう段階。「親孝行」という旗印があっても、「美味しいものも食べたい」「温泉もこだわりたい」と要望は膨らみます。
  2. 整理フェーズ(モデリング): 出された要望を、上記の「4つの階層」に振り分け、矛盾や漏れがないか業務フロー(コース)として組み立ててみる段階。
  3. 収束フェーズ(合意形成): 制約条件(予算・期間)に照らし合わせ、優先順位を付けて「何をやらないか」を決める段階。最終的に「要件定義書(詳細なしおり)」として確定させます。

まとめ:プランニングは「上から下へ、そして外から内へ」

要件定義の全体像は、「コンセプト(目的)」→「業務(流れ)」→「機能・非機能(手段・品質)」という滝のような流れ(ウォーターフォール)であることを忘れないでください。

  • 「何を作るか」よりも先に「何のために、どう使うか」を徹底的に言語化する。
  • 「鳥の目」を持ち、部分最適(個別の機能)ではなく全体最適(ビジネス成果)を優先する。

この全体像が共有できていれば、チーム全員が「今、自分たちはプランのどの階層の議論をしているのか」を理解でき、会議の脱線を防ぐことができます。

次のステップ:本音を引き出す「ヒアリング」の極意

全体像とプロセスが見えたら、次は各階層を具体化するための情報を集める「ヒアリング」が待っています。 しかし、現場のユーザーに「何がしたいですか?」とストレートに聞くだけでは、本当の課題は出てきません。彼ら自身も、自分が何を求めているのか分かっていないことが多いからです。

次回は、「ヒアリングの極意:「要望の洪水」から真のニーズを抽出するコツ」について解説します。 バラバラに噴出する「わがまま(要望)」の中から、真の「ニーズ(要件)」を見極めるテクニックをお伝えします。

最高に満足度の高い「旅行プラン(要件定義書)」を作るために、まずは聞き上手な「プランナー」になりましょう!

次の記事を読む:ヒアリングの極意:「要望の洪水」から真のニーズを抽出するコツ

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メーカーに入社し、その後IT部門が分社独立、情報システムエンジニアとして30年以上勤務しています。これまで多くのプロジェクトに携わり、それらの経験から得た知見を覚え書きとして記録することで、厳しい現場で奮闘しているSEの皆さんの一助となれば幸いです。