要件定義の業務フローの書き方がわからない?
そもそも業務フローってなに?
業務を漏れなく書く方法を知りたい。
お客様(ユーザー)にヒアリングして要件定義をまとめたが、いざシステム開発が終わってテストしてもらうと「機能が足らない」「要望した機能と違う」と言われた!そんな経験はしたくないものですね。
口頭や文章だけの意思疎通では、聞く側の捉え方次第でイメージが変わります。そのため、モデル化した業務フローを一緒に見ながら認識を合わせることが重要です。
ここでは、要件定義の業務フローを3つの階層で漏れなく書く方法をわかりやすく解説します。少しでも要件定義の参考になれば幸いです。
業務フローとは
業務フローとは、業務のプロセスを可視化したもので、関連する前後のプロセスを矢印で繋ぐことで業務の流れを直感的に理解できる図のことです。
要件定義では、システム化対象の業務を理解することから始まります。図式化した業務フローを作成することで、お客様(ユーザー)との認識合わせが容易になり、理解の食い違いを防ぐことができます。
しかしながら、業務フローの作成は、お客様にヒアリングして業務を理解しながら作成するため多くの時間がかかります。まずは現状の業務フローを作成することから始めますが、それだけで時間切れとならないように注意が必要です。
大事なのは現状ではなく、目的を達成するための将来の姿を表した業務フローを作成することです。見直し後の業務フローを検討する時間をしっかり確保して進めましょう。
業務フローの基本的な書き方をこちらでまとめています。あわせてお読みください。
業務フローは3つの階層に分けて書く
業務フローは、「業務プロセス関連図」「業務フロー」「システム化業務フロー」の3つの階層に分けて作成することで業務全体を漏らさずに整理できます。
ここでは、それぞれの業務フローについて詳しく説明します。
業務プロセス関連図
3つのフローの1階層目に当たり、対象となる業務全体の流れを鳥瞰して1枚にまとめたフロー図です。
1枚にまとめるわけですから「○○業務」とか「○○処理」など、大括りな表現で記入します。経営層が主体となる業務プロセスの改革には、このレベルの図を使って検討を進めます。
また、プロジェクトの対象範囲(スコープ)を明確にするとともに、対象外(スコープ外)のプロセスも明示しておきます。 特に社内の他システムや社外の外部システムとの連携が無いかを確認し、存在する場合はやり取りする内容も併せて記載しましょう。
業務プロセス関連図のサンプル
架空の「販売管理システムを再構築するプロジェクト」の業務プロセス関連図です。赤い点線の囲みがスコープになります。
「EDIシステム」と「マスター管理システム」は今回の再構築で見直すためにスコープ内になっていますが、「倉庫管理システム(WMS)」や「会計システム」はスコープ外ということがわかります。
※画像をクリックすると拡大表示します。
業務フロー
3つのフローの中間層に当たるもので、対象業務の現状(As-Is)の流れをまとめたフロー図です。業務プロセス関連図に記載されている業務の1つ(もしくはひと塊り)を切り出して業務プロセスの流れを詳細化します。
このフロー図を業務担当者と共有し、現状の問題・課題の抽出、業務プロセスの改善を検討します。
また、将来のあるべき姿(To-Be)を業務フローに表すことで、プロジェクトの目的や期待する効果を達成できるプロセスになっているかを検討します。
業務フローのサンプル
上述の業務プロセス関連図から「受注管理」の業務プロセスの流れを詳細化した業務フローです。実際の業務フローはもっと複雑だと思いますが、見やすいように簡素化したフロー図にしています。
スイムレーンを縦軸にして「電話で注文を受ける場面」を想定したものです。
スイムレーンってなに?という方は、こちらで業務フローの基本的な書き方をまとめていますので、あわせてお読みください。
システム化業務フロー
3つのフローの最下層に当たるもので、システムを利用した場面を書き込んだフロー図です。業務フローに記載されている作業の1つ(もしくはひと塊り)を切り出し、システムの利用場面を追加して詳細化します。
このフロー図を業務担当者と共有し、システムの現状の問題・課題の抽出、システム化の改善を検討します。
業務フローと同様に、将来のあるべき姿(To-Be)をシステム化業務フローに表すことで、プロジェクトの目的や期待する効果を達成できるシステム利用プロセスになっているかを検討します。
システム化業務フローのサンプル
上述の「受注管理」の業務フローより、「注文受付〜完了申請」までの作業におけるシステム利用場面を追加したものです。
一番右にシステムの列を追加して、システム作業と利用画面、システム機能、対象データを記述します。
※「発注依頼」「出荷依頼」は別途システム化業務フローを作成する想定で除外しています。
いずれの図も同じですが、チャートの記号の意味が分かるように必ず凡例を記載しましょう。
凡例ってなに?という方は、こちらで業務フローの基本的な書き方をまとめていますので、あわせてお読みください。
3つの業務フローの関連と手順
3つの業務フローがどんなものか理解いただけたと思いますが、それぞれの業務フローの関連をもう少し説明したいと思います。
3つの業務フローの関連図
理解しやすいように、家族旅行の計画から実施までの作業を業務プロセスとして整理しました。左から「業務プロセス関連図」「業務フロー」「システム化業務フロー」を表しており、それぞれの手順を黄色文字で記述しています。
3つの業務フローの手順
まず「業務プロセス関連図」で家族旅行でやるべきこと(業務プロセス)を全て洗い出します。全体を鳥瞰する図なので、この程度の粗さで書きます。
次に「業務プロセス関連図」の業務プロセス1つを切り出して「業務フロー」を作成します。この例では、”旅行の予約”のプロセスを細分化して業務フローを書きます。
最後に「業務フロー」をベースにして、具体的にシステムを利用している場面を追加して業務の流れを詳細に書き出します。この例では、”ホテルの予約”プロセスを詳細化してシステム化業務フローを書きます。
このように、業務プロセス関連図で業務プロセス全体を書き出し、業務フローで業務プロセスを細分化していきます。業務フローが書けたら、それにシステム利用場面を追加して詳細化し、業務の中でシステムをどのように利用しているかを明確にしていきます。
業務フローが複雑な場合は2つの階層に分けてもいいでしょう。それとは逆に、シンプルな業務フローの場合は、システム化業務フローに集約(業務フローは書かない)しても構いません。
業務フローの書き方のポイント
3つの業務フローを書く上で意識しておくと良いポイントを紹介します。
業務プロセス関連図のポイント
- 全体が鳥瞰できるようにA3もしくはA4用紙の1枚にまとめる。
- 物流(商品・物の流れ)、商流(金銭・所有権の流れ)、情報流(情報の流れ)を意識して、それぞれのプロセスの関連を表す。
- プロジェクトの対象範囲(スコープ)を表現し、範囲外(スコープ外)のプロセスや社内外のシステムも漏らさずに記載する。
- 連携している社内外のシステムがある場合は、やり取りしている内容やデータを明確にする。
システム構築後も手作業を継続する場合、その作業を行うための情報提供が必要になります。システム化しない手作業だからと業務フローから外してしまうと思わぬトラブルに見舞われるので忘れず明示しましょう。
業務プロセス関連図は「システム コンテキスト ダイアグラム」を利用すると、対象システムと人物・組織との関連性を簡単に図に表すことができます。
こちらにシステム コンテキスト ダイアグラムについて解説していますので、あわせてお読みください。
業務フローのポイント
- 業務で「何をするのか」を書く(どのようにするかを書くと細かくなるので避ける)
- この段階ではシステムを意識せずに業務プロセスの作業を洗い出す。
- まずは通常の業務プロセスを対象に業務フローを書く。
- 業務は日々の業務(日次作業)の他に、月末や月初に行う業務(月次作業)、半期毎や年末のみの業務(年次作業)、突発的な業務(臨時作業)がないかも確認し、必要なら漏れずに書く。
- 通常業務で対応できない例外的な業務を洗い出して業務フローに追記する。
- ある条件で作業内容が変わるような業務、季節や時刻によって変わる業務、または複合条件で変わる業務など、複雑な業務がないかも確認する。
- 登場する人物(部署名と担当する役割)の範囲を明確にするために、縦軸(もしくは横軸)を区切ってスイムレーン※を作って記載する。
ルールを外れた場合(入力ミス、月跨ぎ、未承認時の緊急対応等)やサービス時間外などの業務のことで、必ず業務担当者にヒアリングして洗い出すことが重要です。
※1枚の用紙をプールに見立て、選手が泳ぐレーンを区切っているイメージからスイムレーンと呼ばれています
システム化業務フローのポイント
- システムの操作(システム機能)と画面・帳票(対象アイテム)をセットで記載する。
- 業務フローがベースとなるため、通常業務(日次作業、月次作業、年次作業、臨時作業)や例外的な業務、条件で変わる業務など、漏らさず同様に書く。
ヒアリング時に現在使っている帳票や画面キャプチャ、既存システムの仕様書やマニュアルなど、参考資料として受領しておきましょう。
もし、既存システムの仕様書やマニュアルが無い場合は、既存システムのテスト環境(本番以外の環境)が利用できないか確認しましょう。
業務フローに「ユースケース図」を利用する方法もあります。
こちらにユースケース図について解説していますので、あわせてお読みください。
(参考)業務フローのサンプル紹介
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が「超上流から攻めるIT化の事例集:要件定義」と題して成果物のサンプルを掲載しています。その中の「業務流れ図」に業務フローのサンプルがいくつかありますので参考にしてみてください。
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)| 超上流から攻めるIT化の事例集:要件定義
業務機能一覧のまとめ方
漏れなく業務フローを書くためには、業務プロセス関連図から業務機能一覧をまとめることが重要です。
業務フローと業務機能一覧の関連図
下図は、3つの業務フローと業務機能一覧の関連を表したものです。「業務プロセス関連図」「業務フロー」「システム化業務フロー」の関連ポイントを黄色文字で記述しています。
このように、「業務プロセス関連図」は業務機能一覧の大分類に、「業務フロー」「システム化業務フロー」から中分類や小分類、システム作業を書き出すことで、漏れなくダブりなく業務機能をまとめることができます。
業務機能一覧の手順
まず、業務プロセス関連図が作成できたら、それぞれの業務プロセスを業務機能一覧の大分類に書き出します。これが業務機能一覧のベースとなりますので、ここで書き漏れないように注意しましょう。
その後、業務フローやシステム化業務フローが作成できたら、中分類、小分類、システム作業を書き加えていきます。また、部門・役割、業務概要なども一覧に記載することで対象業務の全体像を把握することができます。
ただし、システム再構築など、すでに業務全体のリストがある場合は、業務機能一覧を作成してから業務フローを書いても問題ありません。
最終的には、この業務機能一覧でお客様とシステム化対象範囲を合意することになりますので、業務フローを作成したら漏らさずに業務機能一覧に記入しましょう。
業務フローに条件や解説を書き込むと理解しやすくなるため有効ですが、複雑な業務で説明書きが多くなると逆に見にくくなります。それは業務機能一覧でも同様です。
業務フローに書ききれない細かな業務内容は別紙(業務内容定義書など)にまとめましょう。
使われないシステムを開発しないために
要件定義はお客様の業務を知ることから始まります。業務の勘違いや機能不足に気づかずにシステム開発を進めてしまうと、最悪はお客様(ユーザー)のテスト段階で発覚して大きな手戻りが発生し、多大な損害をもたらします。
「機能が足らない」「要望した機能と違う」と言われないために、3つの業務フローの書き方を参考に、業務の全体像を漏れなく洗い出し、お客様と共に将来のあるべき姿を描きましょう。
もし要件定義に少しでも不安がある方は、要件定義の記事をまとめていますので、こちらもあわせてお読みください。要件定義が計画通りに完了することを願っています。