「タスクは全部洗い出したはずなのに、なぜか現実的なスケジュールが引けない・・・・・・」
「WBSをガントチャートに並べただけで、本当に納期が守れるのか不安だ」

プロジェクトマネジメントにおいて、WBSの作成は基本中の基本ですが、実は「WBSができた=スケジュールが完成した」わけではありません。WBSはあくまで「やるべき作業のリスト」です。

今回はシリーズの完結編として、洗い出したタスクをどう並べ、どう調整すれば「完成」と言えるのか。迷わず進める7つのステップで、実行可能なスケジュールを組み上げる実践的な手法を解説します。

※本記事は、シリーズ「現場で迷わない!システム開発スケジュール作成の極意」の【第3回:実行計画編】です。

ステップ1〜3:タスクを繋ぎ、期間と急所を見極める

まずは、洗い出した作業リスト(WBS)に時間軸と順序を与え、スケジュールの骨組みを作ります。

1. WBSを「線」でつなぐ(作業の依存関係)

WBSで書き出した作業を、どの順番で進めるのが最速か。タスク同士の「つながり」を整理します。ここが決まらないと、スケジュールはただの作業の羅列から抜け出せません。 タスクのつながりには、大きく分けて「並行関係」と「前後関係」の2つがあります。

  • 並行関係:複数のタスクを同時に進める関係です。
  • 前後関係:あるタスクの開始・終了が、別のタスクに依存する関係です。

とくにスケジュール作成で重要になる「前後関係」については、以下の4つのパターンを意識して繋いでいきます。

パターン内容現場での具体例
終了-開始(FS)Aが終われば、
Bが始められる
要件定義が固まらないと、
設計には入れない
開始-開始(SS)Aが始まれば、
Bも始められる
画面設計が始まれば、
並行してテーブル定義も着手できる
終了-終了(FF)Aが終われば、
Bも終わらせられる
全てのテストが完了しないと、
品質判定会議は完了できない
開始-終了(SF)Aが始まれば、
Bを終えられる
新システムの本番稼働が始まれば、
旧システムの保守を終了できる

スケジュールを短縮しようと依存関係を無視して無理に「並行関係」にすると、後で大きな手戻りが発生します。「どこまで決まれば次に行けるか」を冷静に判断することが重要です。

2. 「工数」と「期間」を混同しない!(3点見積もり)

ここが最も頭を悩ませるポイントですが、「工数(人時間)」と「期間(日数)」を分けて考えます。たとえば「工数:20時間」の作業でも、1日2時間しかその作業に充てられない場合、カレンダー上の「期間」は10日になります。

また、予定通りにいかないのがプロジェクトです。以下の式でリスクを加味した期間を算出する「3点見積もり」を活用しましょう。

全体の期間=楽観値+(4×標準値)+悲観値6\text{全体の期間} = \frac{\text{楽観値} + (4 \times \text{標準値}) + \text{悲観値}}{6}

楽観値(最短で終わる場合)だけで計画を立てるのは、現場では非常に危険です。

3. 遅延は即アウト!「クリティカルパス」の特定

プロジェクトの開始から終了までをつなぐ経路の中で、「最も時間がかかる経路」をクリティカルパスと呼びます。 このパス上の作業が1日でも遅れると、プロジェクト全体の納期が1日遅れます。スケジュールの「急所」となるため、クリティカルパス上の作業には、なるべく経験豊富で安定感のあるメンバーを配置するのが鉄則です。

ステップ4〜5:机上の空論を防ぐリソースと工期の調整

期間と急所が見えたら、担当者を割り振り、納期に収まるように現実的な調整を行います。

4. 現場の現実を見る「リソース調整」

アサイン時には以下の「現実」を考慮し、無理な計画を解消します。

  • リーダー層の稼働率:会議や管理業務に時間を取られるため、実作業の稼働率は5〜7割程度で計算します。
  • 生産性の違い:ベテランと若手では、同じ作業でもかかる時間が違います。
  • ブルックスの法則:有名なソフトウェア工学の法則で「遅れているプロジェクトへの要員追加は、さらにプロジェクトを遅らせる」というものです。人員を増やせば教育コストが発生し、一時的に生産性が落ちるリスクを考慮しましょう。

5. デッドラインを死守せよ!戦略的な「工期短縮」

どうしても納期に間に合わない場合、闇雲に残業を増やすのではなく、戦略的な手法を検討します。

  • クラッシング(人件費投入):人員を追加投入して、クリティカルパス上の作業を短縮します。ただし、人員を増やしすぎると情報の共有だけで一日が終わる「コミュニケーションラインの爆発」を招く恐れがあります。
  • ファスト・トラッキング(並行作業):本来は順番にやるべき作業を、リスクを承知で一部並行して進めます。手戻りが発生すると後続作業がすべて無駄になるリスクがあります。

無理な短縮は品質のトレードオフを招きます。リリース直後に致命的なバグが発覚し、高いツケを払うことになりかねないため、常にリスクと引き換えの判断であることを認識しておきましょう。

ステップ6〜7:「もしも」に備えるバッファと進捗管理

最後に、計画を安全に運用するためのバッファ(予備時間)の考え方と、日々の管理手法です。

6. 個別のタスクにバッファを隠さない

各タスクの期間を少しずつ長めに設定し、各自にバッファを持たせるのは逆効果です。以下の心理的な罠にはまるからです。

  • パーキンソンの法則:「仕事の量は、与えられた時間を使い切るまで膨張する」
  • 学生症候群:「締切直前にならないと本気で取り掛からない」

バッファは各タスクに含ませず、プロジェクトの末尾に集約して管理しましょう。「チーム全体の共有財産」として可視化することで、本当に必要なトラブル対応時にのみ活用できるようになります。

7. 現場の「今」を掴む!イナズマ線による進捗管理

スケジュールは立てて終わりではありません。完成した計画と実績のズレを可視化するのが「イナズマ線」です。 ガントチャート上の「今日」の時点から、各タスクの進捗地点を折れ線で結びます。

  • 左に突き出している(イナズマの角):その作業が予定より遅れているサインです。
  • 右に突き出している:その作業が予定より進んでいるサインです。

一目でボトルネックが浮き彫りになります。特に、「クリティカルパス上のタスクが左に振れている」場合は、即座にリソースの再配置やバッファの切り崩しを検討しなければなりません。

まとめ:この7ステップで「勝てるスケジュール」が完成する

精度の高いスケジュールを完成させるための7つのステップを振り返りましょう。

  • 流れを作る:依存関係を整理し、論理的な順序を確立する
  • リスクを見積もる:3点見積もりで期間を算出する
  • 急所を掴む:クリティカルパスを特定する
  • 現実を見る:メンバーの稼働率と生産性のギャップを考慮する
  • 戦略を練る:必要に応じてクラッシング等の短縮技法を検討する
  • 予備を持つ:バッファは末尾に集約して管理する
  • 今を掴む:イナズマ線を活用し、計画と実績の乖離を解消し続ける

スケジュールとは、「計画(仮説)」と「実績(真実)」のズレを正し、常にゴールに向けて軌道を修正し続ける作業に他なりません。

このシリーズを通してお伝えした「鳥の目(マスター)」「虫の目(WBS)」「生きた足(実行)」を武器に、ぜひプロジェクトを成功に導いてください。

シリーズ:現場で迷わない!システム開発スケジュール作成の極意
【第1回】 マスタースケジュールの書き方|炎上を防ぐ「顧客との合意形成」3ステップ
【第2回】 WBSの書き方とタスクの「粒度」目安|作業漏れを防ぐ4ステップ
【第3回】 現実的なスケジュールの作り方|WBSから実行計画に落とし込む7ステップ(本記事)

【完全保存版】要件定義の実践ガイド総まとめ|炎上と手戻りを防ぐプロジェクト成功のロードマップシステム開発の成否の8割を決める「要件定義」。本記事では、プロジェクトの炎上や手戻りを防ぐための実践ガイド(全9回)を一挙にまとめました。企画構想からWBS作成、業務フローの書き方まで、現場PMが絶対に知っておくべき成功のロードマップを大公開します。...
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情報システムエンジニアとして35年以上、システム開発の最前線に立つ現役エンジニア。10億円規模の大規模案件など、数多くのプロジェクトマネジメント経験から得た「現場ですぐに使える実践的な知見」を発信します。日々、厳しい現場で奮闘しているPMやSEの皆さんの一助となれば幸いです。