大事なことが伝わっておらず、手戻りが発生した…
チャットの通知が多すぎて、本当に必要な情報が埋もれてしまう…

プロジェクトが進み出すと、情報の量は爆発的に増えます。体制図で「誰がやるか」を決め、標準ルールで「マナー」を決めても、「情報の流れるルート(道路)」が整備されていないと、チーム内ですぐに情報の交通事故が起きてしまいます。

今回は、チームを迷わせないための情報の設計図、「コミュニケーション計画」の立て方を、家族旅行の例えで分かりやすく解説します。

コミュニケーション計画とは、情報の「交通整理」である

家族旅行で、こんな経験はありませんか?

  • 【情報の遮断】
    お父さんだけが「明日は朝5時出発」と決めていて、長男・長女は夜更かし。当日朝にパニックになる。
  • 【手段の間違い】
    賑やかなテーマパークで遊んでいる最中に、お母さんが「集合場所の変更」を家族LINEに送る。全員遊びに夢中で通知に気づかず、結局バラバラの場所で待ちぼうけになる。(=緊急度に対して手段が静かすぎる)
  • 【過剰な報告】
    旅のグループチャットに「今、トイレに寄った」「ソフトクリーム買った」と全員が投稿し続け、肝心の「集合時間の変更」という重要なメッセージが流れて見逃される。
  • 【思い込みによる確認漏れ】
    「誰かがチケットを買ったはず」とお互いに思い込み、駅に着いてから誰も手配していないことに気づく。
  • 【情報の抱え込み】
    リーダー(お父さん)だけが「この先が渋滞している」と知っていたが、誰にも共有せずに渋滞へ突入。メンバーは「なぜ早く言わなかったのか」と不満を募らせる。
  • 【古い情報の参照】
    数年前の古いガイドブックを見てお店に行ったら、すでに閉店していた。(=最新の資料がどれか分からない)

これらはすべて、「誰に・いつ・どの手段で・何を」伝えるべきかの整理(コミュニケーション計画)ができていないために起こる悲劇です。

プロジェクトにおけるコミュニケーション計画の目的は、会議やメールの回数を増やすことではなく、「必要な情報が、最小限の労力で、確実に届く状態」を作ることです。

計画を立てるための「5つの軸(5W1H)」

コミュニケーションを設計する際は、5W1Hをベースにした以下の5つの軸で整理します。

① 目的(Why):なぜ伝えるか?

すべてのコミュニケーションには目的があります。「承認を得るため」なのか「単なる共有」なのかを明確にすることで、受け手の構えが変わります。

② 対象(Who):誰に伝えるか?

すべての情報を全員に伝える必要はありません。

  • 意思決定者(お父さん): 判断に必要な「結果」と「リスク」を伝える。
  • 実行者(長男・長女): 具体的に「今何をするか」という手順を伝える。
  • ステークホルダー(おじいちゃん): 旅が順調であるという「安心感」を伝える。

③ 内容(What):何を伝えるか?

情報は、その「賞味期限」と「重み」で分類して伝えます。

  • フロー情報(流れる情報): 「渋滞している」など、その場限りのやり取り。
  • ストック情報(蓄積する情報): 「ホテルの住所」など、後で何度も見返す情報。
  • 決定事項と相談事項: 「決まったこと」なのか「悩んでいること」なのかを区別します。

④ 場所・手段(Where / How):どこで・どう伝えるか?

スピードと記録のバランスで使い分けます。

  • 対面・Web会議: 複雑な相談や, チームの士気を高める時に有効。
  • チャット(Slack/Teams): 日常的なクイックなやり取り。
  • 共有フォルダ・Wiki: 情報を資産として残す場所。

⑤ タイミング(When):いつ伝えるか?

  • 定例: 毎週月曜の朝など、リズムを作る報告。
  • 随時: 問題が起きた瞬間のアラート。

【実践】コミュニケーションマトリクス:情報の設計図を作る

これまでの要素を一枚の表にまとめたものを「コミュニケーションマトリクス」と呼びます。これは、新しくチームに入ったメンバーが「どの情報はどこで見れば(書けば)いいのか」を即座に判断するための、いわば「情報の公式ガイドブック」です。

コミュニケーションマトリクス表(例)

報告・会議・成果物名目的
(Why)
内容
(What)
頻度
(When)
参加者
(Who)
場所・手段
(Where/How)
朝会(デイリー)今日の予定と困りごとの共有今日のタスク・詰まっている点毎日(15分)全員Web会議/対面
週次定例進捗報告と次週の課題調整進捗率・マイルストーン達成状況週1回PM, リーダーWeb会議
課題管理台帳全てのトラブルの記録と追跡発生事象・対策・担当・期限随時(更新)全員(参照・追記)共有管理シート
緊急アラート重大事象の即時報告重大障害・納期遅延のリスク即時全員チャット(緊急タグ)

運用を成功させるための補足ポイント

  • 「会議」を減らすツールとして使う: 「これはチャット報告で十分」と事前に定義することで、無駄な会議を削減できます。
  • 鮮度と記録の使い分け: すぐに流れてもいい連絡(フロー)と、後で証拠として残すべき決定事項(ストック)を明確に区別して運用しましょう。
  • 参加者を絞る: 「関係ない人を会議に呼びすぎない」ためのフィルターとして機能させ、チーム全体の生産性を守ります。

コミュニケーションを円滑にする3つの鉄則

計画を絵に描いた餅にしないための、運用のコツです。

「バッドニュース・ファースト」の文化

「雨が降りそうだ」という予報を早く伝えれば、予定を変更できます。悪い情報ほど、早く、隠さず伝えることが最大の危機管理になります。

「情報の置き場所」を一箇所にする

「あの資料どこ?」という探索時間は無駄です。「最新の正解はここにある」というシングル・ソース・オブ・トゥルース(信頼できる唯一の情報源)を決めます。

会議を「報告」に使わない

進捗は事前にテキストで共有しておき、会議では「解決すべき課題の相談」だけに集中しましょう。

まとめ:良いコミュニケーションは「安心感」を生む

コミュニケーション計画は、単にツールを決めることではありません。「誰に、いつ、何を伝えればいいか」を明確にすることで、チーム全員の不安を取り除き、本来の作業に集中できる環境を作ることです。

  1. 情報の「置き場所」を決める(情報の迷子をなくす)
  2. 状況に合わせた「手段」を選ぶ(緊急度と重要度で使い分ける)
  3. 会議を「価値」に変える(全員の時間を尊重する)

スムーズな情報の流れは、プロジェクトという車を動かすための「潤滑油」です。

次のステップ:「雨の予報」と「パンク」にどう立ち向かうか?

情報の道筋(コミュニケーション計画)が整い、いよいよ旅の準備は最終段階です。しかし、どれほど完璧な計画を立て、スムーズに連絡を取り合っていても、旅にトラブルはつきものです。

「もし雨が降ったらどうする?(リスク)」、「今、タイヤがパンクしてしまった!(課題)」。次回の記事では、この似て非なる2つの問題を整理し、プロのPMが実践する「リスク管理と課題管理」の極意を解説します。

  • 「降るかもしれない雨」と「今降っている雨」の決定的な違い
  • バッドニュースを最速で共有する「心理的安全」の作り方
  • 被害を最小限に抑える! 管理台帳の具体的な書き方と運用術

トラブルを「想定外」にしない。そんな強固なチームを作るための「備えの技術」を一緒に手に入れましょう!

次の記事を読む:リスク管理と課題管理の違い|「雨への備え」と「起きた問題」への対処法

【完全版】プロジェクト管理の基本を「旅行の例え」で学ぶ|全12回・初心者向け完全ガイドプロジェクト管理の基本と実践を「家族旅行」に例えて全12回で徹底解説。PMBOKの基礎からWBS、RACI、リスク管理、変更への対応、役割分担、そして終結まで、30年の現場経験に基づく「失敗しないPMのコツ」を網羅した完全ガイドです。...
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メーカーに入社し、その後IT部門が分社独立、情報システムエンジニアとして30年以上勤務しています。これまで多くのプロジェクトに携わり、それらの経験から得た知見を覚え書きとして記録することで、厳しい現場で奮闘しているSEの皆さんの一助となれば幸いです。