プロジェクトが始まったけど、誰に何を頼めばいいか曖昧で進まない…
結局、いつもPMの自分ばかりが動いている気がする…

システム開発プロジェクトにおいて、体制図は単なる「組織図」ではありません。それは、プロジェクトの意思決定スピードを左右し、トラブル発生時でも迷わず進むための「家族旅行の役割分担」のようなものです。

本記事では、30年の現場経験から導き出した「失敗しないプロジェクト体制の作り方」と、リソースを最適化する「要員計画」のポイントを、おなじみの「家族旅行」に例えて分かりやすく解説します。

体制図の目的:なぜ「旅行の役割表」が必要なのか?

家族旅行を想像してみてください。お父さんは「温泉に行きたい」、お母さんは「買い物をしたい」、長男は「話題のスポットに行きたい」とバラバラに主張し、誰もホテルの予約を確認していなければ、せっかくの旅行は台無しです。プロジェクトも全く同じです。

体制図を作る最大のメリットは以下の3点です。

  1. エスカレーションパス(指示と報告のルート)の確立: 誰が最終決定を下すのかを明確にし、「判断待ち」による停滞を防ぎます。
  2. カウンターパート(対等な窓口)の明確化: お客様(家族)と開発側(旅行代理店)の「相談相手」を固定し、指示の錯綜をなくします。
  3. 責任範囲の可視化: 「誰かがやると思っていた」という隙間を排除し、全員の持ち場を明確にします。

PM・PL・メンバーの役割を「家族旅行」で理解する

プロジェクトの主な役割を、旅行に関わる人たちに例えて整理しましょう。指揮命令の流れが重要です。

PM(プロジェクトマネージャー)=「お父さん(全体責任者)」

  • 役割: プロジェクト全体の目的(楽しい旅行の実現)に全責任を持ちます。
  • 指揮のイメージ: 予算を管理し、旅の行き先を最終決定します。トラブル時に「予定を変更するか、強行するか」を決める最終意思決定者です。

PL(プロジェクトリーダー)=「お母さん(現場リーダー)」

  • 役割: PMの指示のもと、特定のユニット(食事や移動)の現場指揮を執ります。
  • 指揮のイメージ: 実務を担う長男・長女たち(メンバー)に「準備はできた?」と指示を出し、遅れがあればお父さん(PM)に報告し、調整を仰ぎます。

ステークホルダー = 「親戚・近所の人」

  • 役割: 直接旅行には行きませんが、予算を出してくれる重要人物です。
  • 実務での例え: 資金を出す経営層や、システムを使う他部署の担当者など、「無視できない関係者」です。

プロの役割分担術:RACI(レイシ)マトリクス表

体制図で「箱」を書いただけでは、誰が決定権を持つのか不明確です。実務ではRACI(レイシ)というフレームワークを使って、指示系統を定義します。

  • R(Responsible:実行者): 実際に手を動かして作業する人。
  • A(Accountable:承認者): そのタスクの結果に責任を持ち、最終判断する人(必ず1人だけ)。
  • C(Consulted:相談先): アドバイスや専門知識を提供してくれる人。
  • I(Informed:報告先): 決定事項を共有される人。

【事例】家族旅行のRACIマトリクス表

具体的に、旅行のタスクをRACIで整理すると以下のようになります。全てのタスクに「責任者(A)」と「実行者(R)」が定義されていることがポイントです。

タスク
(作業内容)
お父さん
(PM)
お母さん
(PL)
長男・長女
(メンバー)
おじいちゃん
(スポンサー)
行き先の最終決定ACIC
ホテルの予約作業ARRI
当日の車の運転ACRI
昼食場所のリサーチIAR
出発時間の通知AIRI

※当日の車の運転:「実際にハンドルを握る人(R:長男・長女)」と、「どのルートを通るか最終判断する人(A:お父さん)」を明確に分けることで、車内でのケンカ(混乱)を防ぎ、スムーズな進行を可能にします。さらに、道に詳しいお母さんに相談(C)したり、到着を待つおじいちゃんへ報告(I)したりすることで、チーム全体が連携できます。

【重要】RACIを運用する上での鉄則

RACIの各役割が「必須」か「任意」かという点は、プロジェクトの健全性を保つ上で非常に重要なポイントです。結論から言うと、「A(承認者)」は絶対に必須であり、かつ「1つのタスクに対して1人だけ」という鉄則があります。

1. A(Accountable:承認者):【必須・絶対1人】

  • 必須の理由: 「最終的に誰が決めるのか」が決まっていないと、意見が割れた時にプロジェクトが止まってしまいます。
  • 1人だけの理由: 承認者が2人以上いると、責任のなすりつけ合いが発生したり、指示が矛盾したりする原因になります。「船頭多くして船山に上る」状態を防ぐためのルールです。

2. R(Responsible:実行者):【必須・1人以上】

  • 必須の理由: 「誰がやるか」が決まっていなければ、タスクは完了しません。
  • 人数の目安: タスクの規模に応じて複数人でも構いませんが、多すぎると「誰かがやるだろう」という心理(社会的手抜き)が働くため、リーダー格を1人決めるのが望ましいです。

3. C(Consulted:相談先):【任意】

  • 考え方: 専門知識が必要ない単純なタスクであれば、設定しなくても問題ありません。
  • 注意点: 設定しすぎると、相談(会議やレビュー)に時間がかかりすぎ、スピードが遅れる「コンサル過多」に陥ることがあります。本当に必要なアドバイザーに絞ります。

4. I(Informed:報告先):【任意】

  • 考え方: そのタスクの結果が他の作業に影響しない場合は不要です。
  • 注意点: ただし、ステークホルダー(おじいちゃん)など、進捗を把握しておくべき相手を漏らすと、後からトラブルになるリスクがあるため、慎重に判断します。

よくある「RACIのNGパターン」

家族旅行の例で言えば、「今日の宿をどこにするか(A)」は、必ずお父さんかお母さんのどちらか1人が最終決定権を持たないと、いつまでも予約ができないという状態をイメージしてください。

  • Aが不在: 誰も責任を取らず、物事が決まらない。
  • Aが複数: 誰に判断を仰ればいいか現場が混乱する。
  • Cが多すぎる: 調整に時間がかかりすぎて、実行(R)が進まない。
  • Rが不在: 計画だけで、誰も手を動かしていない。

賢い要員計画の立て方:リソースを最適化する

体制(誰がやるか)が決まったら、次は「いつ、どれくらいの力を借りるか」を決める「要員計画」が必要です。

要員計画とは「適切なタイミングでの手配」

要員計画とは、プロジェクトの各フェーズにおいて、必要なスキルを持つ人を、必要な人数分だけ確保する計画のことです。

家族旅行でいえば、「いつ、どんな専門家や乗り物が必要か」を手配することに似ています。

  • 旅の計画段階では「旅のプロ(旅行代理店)」の知恵を借りる。
  • 移動中には「運転できる人」を確保する。
  • 現地では「ガイドさん」をピンポイントで呼ぶ。 ずっと全員を拘束するのではなく、「必要な時だけ、最適な人をアサインする」のがスマートな計画です。

フェーズごとの「参加とフェーズアウト」

プロジェクトの進行に合わせて、メンバーを入れ替える(フェーズアウトさせる)ことでコストと品質を両立させます。

  • 要件定義(計画): 家族の要望(ビジネスニーズ)を正確に聞き取り、形にするコミュニケーション力の高いベテランを配置。
  • 開発(実行): 計画に基づいて、黙々と設計や実装(運転や手配)を進められる実務担当を最大化。
  • テスト(確認): 「本当に忘れ物はないか?」「行程通りか?」を客観的に判断できる「厳格なチェック担当」を投入。

稼働率の罠(予備の体力を残す)

「全員が100%の力で、24時間フル稼働する」という計画は、机上の空論です。

  • バッファの確保: 旅行中に誰かが風邪を引いたり、渋滞に巻き込まれたりするように、プロジェクトにも予期せぬトラブルはつきものです。
  • 実質稼働の目安: プロは実働を80〜90%で見積もります。残りの10〜20%を「不測の事態への対応」や「休息・ナレッジ共有」の余白として残しておくことで、一人が欠けてもプロジェクトが沈没しない強靭なチームを作れます。

まとめ:最高のプロジェクトは明確な「指揮系統」から

体制図と要員計画は、プロジェクトという長旅を成功させるための「家族のチームワーク」そのものです。

「誰が最後に決めるのか」「困ったら誰に言うのか」を全員が理解し、適切なタイミングで適切な力が発揮できれば、どんなトラブルが来ても乗り越えられます。あなたのプロジェクトに、「決まらない曖昧さ」や「無理な詰め込み」はありませんか?一度、この「家族旅行」の視点でチームの形を見直してみてください。

次のステップ:チームを迷わせない「旅の合言葉」

体制と計画が整ったら、次に必要なのは「全員が同じルール(標準)で動くこと」です。

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メーカーに入社し、その後IT部門が分社独立、情報システムエンジニアとして30年以上勤務しています。これまで多くのプロジェクトに携わり、それらの経験から得た知見を覚え書きとして記録することで、厳しい現場で奮闘しているSEの皆さんの一助となれば幸いです。