進捗管理とWBSの運用|「今どこにいるか」を正しく把握し、迷子を防ぐコツ
計画通りに進んでいるはずなのに、なぜか納期直前でパニックになる…
メンバーに状況を聞くと『順調です』と返ってくるが、中身が見えない…
出発式(キックオフ)を終え、いよいよ車は走り出しました。しかし、プロジェクトという長旅において、最も難しいのは「走り続けること」ではなく、「今どこにいて、予定通りゴールに着けそうかを正しく把握し続けること」です。
今回は、現場のハンドル捌きの要である「進捗管理」と「WBS運用」の極意を、これまでの記事同様に「家族旅行」の役割に例えて解き明かします。
進捗管理とは「カーナビ」をチェックし続けること
家族旅行で、目的地まであと何キロか、予定時間に間に合うかを常に確認するのと、プロジェクトの進捗管理は全く同じです。
- マスタースケジュール(旅程表): 「12時には現地に着いていたい」という目標。
- WBS(走行ルート): 「どの交差点をいつ曲がるか」という具体的な手順。
- 進捗管理(カーナビ): 「今、どの交差点にいて、どれくらい遅れているか」をリアルタイムで測る作業。
カーナビを見ずに走り続ければ、いつの間にか道を間違え(要件のズレ)、気づいた時には取り返しのつかない時間(予算と納期)を失ってしまいます。
「進捗率の嘘」を見抜く2つのポイント
現場でよく聞く「進捗80%です!」という言葉。これを鵜呑みにすると、最後の20%に数倍の時間がかかる「90%の壁」にぶつかります。
① 「仕掛かり」は進捗ではない
旅行で「荷造り80%終わりました」と言われて確認したら、部屋中に荷物が散乱している状態。これは進捗ではなく、単なる「作業中」です。 プロジェクトでは、「完了(Done)」の定義を厳格にしましょう。
- NG: 「だいたい書きました」
- OK: 「レビューが終わり、承認印をもらいました」
この「誰が見ても終わった」と言える状態(完了基準)に達して初めて、進捗としてカウントします。
② 残りの作業量(あと何日かかるか)を聞く
「これまで何日かけたか(実績)」よりも、「あと何日あれば終わるか(残りの作業量)」の方が重要です。 「10キロ走りました(実績)」と言われても、ゴールまであと100キロあるなら、それは大遅延です。常に「あとどれくらいで着く?」と問いかけ、状況を正しく把握するのがお父さん(PM)の役割です。
WBSを「生きた地図」にする運用のコツ
WBSは作って終わりではありません。旅の状況に合わせて更新し続ける「生きた地図」でなければなりません。
渋滞(遅延)の早期発見
WBSの各タスクに「開始予定日」と「終了予定日」を入れます。
- 開始が遅れている: 「エンジンがかかっていない」サイン。
- 終了が遅れている: 「走行中に渋滞にはまっている」サイン。 特に、後続の作業(ホテルのチェックインなど)に影響するタスクの遅れには、お母さん(PL)が敏感に反応し、早めにお父さん(PM)へ報告する必要があります。
「終わった」の定義(DoD)を揃える
「荷造り完了」と言った時、お父さん(PM)は「車に積んだ状態」を想像し、子供(メンバー)は「カバンに入れただけ(まだ部屋にある)」と思っている…。このズレが地図を狂わせます。 タスクごとに「何をもって完了(100%)とするか」の条件(完了基準)を事前に合意しておきましょう。これが揃うと、進捗の精度が劇的に上がります。
WBSのメンテナンス(再計画)
「道が通行止めだった」なら、WBSを書き換えて別のルートを探さなければなりません。 一度決めたWBSに固執せず、週に一度はチーム全員で地図(WBS)を広げ、現状に合わせて線を弾き直す習慣を持ちましょう。
渋滞(遅延)が起きた時の3つの選択肢
もし大幅な遅れが見つかったら、お父さん(PM)は速やかに次の3つのいずれかを検討しなければなりません。家族旅行なら「ごめん!」で済むかもしれませんが、ビジネスではステークホルダーとの高度な調整が求められるタスクです。
① アクセルを踏む(リソース投入)
「運転を交代する」「高速道路を使う」ように、人を増やしたり、残業でカバーして時間を買い戻す方法です。
- 現実の難しさ: プロジェクトの後半で人を増やしても、教育コストがかかって逆に遅れる(ブルックスの法則)ことがあります。また、予算(ガソリン代)の追加承認も必要になるため、早めの判断が不可欠です。
【ブルックスの法則とは?】
「遅れているソフトウェアプロジェクトへの要員追加は、プロジェクトをさらに遅らせるだけである」という法則です。新メンバーの教育に既存メンバーの工数が割かれることや、コミュニケーションの経路が複雑化することが主な原因です。
② 寄り道を諦める(スコープ調整)
「今回はあの観光地をパスしよう」と、優先度の低い機能を後回しにし、納期を死守する方法です。
- 現実の難しさ: お客様にとっては「どれも必要な機能」です。お父さん(PM)は、どの機能を削れば目的地の到着に間に合うか、論理的に説明し、納得してもらう交渉力が問われます。
③ 到着時間を遅らせる(納期変更)
「今夜は遅くなる」とステークホルダー(おじいちゃん)に連絡し、納期の合意を取り直す方法です。
- 現実の難しさ: ビジネスにおいて納期遅延は信頼失墜に直結します。どうしても避けられない場合は、単なる「遅れます」ではなく、遅延の理由と「新しい到着時刻なら確実に着ける根拠」をセットで提示する必要があります。
どれを選ぶにせよ、「今、渋滞している」という事実を隠さず、早く共有することが最大の解決策です。早めに相談すれば、選択肢はまだ残されています。
まとめ:進捗管理は「安心」のためにある
進捗管理の本質は、遅れを叱責することではありません。現在地を正しく知り、ゴールまでの「最短ルート」を全員で再確認して、チームに安心感を与えることです。
- 「順調です」を数字で裏付ける(客観的な把握)
- ズレを早期に発見する(早めの軌道修正)
- 判断の基準を持っておく(アクセルか、諦めか)
現在地が常にクリアになっていれば、チームはどんな渋滞(トラブル)に見舞われても、冷静に目的地へと走り続けることができます。
次のステップ:ただ「着く」だけではなく「価値」を持ち帰ろう
目的地(ゴール)への到着予定時刻が正確に把握できるようになりました。しかし、旅行の成功は「時間通りに着くこと」だけで決まるわけではありません。
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