システム開発のプロジェクトマネージャーを任命されたけど、スケジュール管理はどうすればいいの?
マスタースケジュールとは?WBSとは?
スケジュールの書き方がわからない?
システム開発のプロジェクトを成功に導くためには、マスタースケジュールとWBSの作成と管理が必須です。
マスタースケジュールはプロジェクトのベースラインとなるもので、ステークホルダーが共有することで全体の作業やイベントを理解し、混乱せずにプロジェクトを進めるために必要となります。そのマスタースケジュールをもとに、具体的な作業に分解して担当者を割り当てたものがWBSです。主にWBSで作業の進捗を管理します。
今回は、スケジュール管理の方法、マスタースケジュール・WBSの役割と書き方をわかりやすく解説します。
前回のおさらい(プロジェクト計画の書き方)
前回は、プロジェクトを成功させるためにプロジェクト計画を書くこと、そしてプロジェクト計画の最初は「プロジェクト概要」をまとめることを説明しました。
プロジェクト概要がまとまったら、次はプロジェクト計画を詳細に落とし込んでいきます。プロジェクト計画でやるべきことは、前回のプロジェクト概要を含めて11項目あります。
これらはプロジェクトを円滑に運営するための重要なガイドと言えるものです。この11項目をプロジェクト計画書にまとめ上げ、ゴールに向かってプロジェクトをスタートしましょう。
今回は、マスタースケジュール・WBS(Work Breakdown Structure)を解説します。
プロジェクトは2つのスケジュールで管理する!
前回の「プロジェクトを成功に導くプロジェクト計画の書き方」で、
プロジェクトのスケジュールには、プロジェクト全体の日程を俯瞰した「マスタースケジュール」と、具体的な作業に担当者を割り当てた「WBS」があります
と説明しました。
マスタースケジュールはプロジェクトのベースラインとなるもので、ステークホルダーが共有することで全体の作業やイベントを理解し、混乱せずにプロジェクトを進めるために必要となります。
そのマスタースケジュールをもとに、具体的な作業に分解して担当者を割り当てたものがWBSです。主にWBSで作業の進捗を管理します。
この「マスタースケジュール」と「WBS」でプロジェクトをマネジメントします。
マスタースケジュールとWBSの違いとは?
それぞれ簡単に言うと、マスタースケジュールで全体の作業やイベントを漏れなく見渡し、WBSで作業の進捗を管理していきます。2つのスケジュールを作成するのは面倒ですが、それぞれ役割が異なります。
マスタースケジュールとWBSの違いをまとめます。
マスタースケジュール | WBS |
プロジェクトのベースラインとなるもの | マスタースケジュールをもとに具体的な作業に分解して担当を割り当てたもの |
プロジェクト全体の作業やイベントを俯瞰して書き出す | 担当者の作業が重複したり、工数が多すぎるものがないか確認する |
主にプロジェクトのお客様やプロジェクトマネージャーとの進捗確認に利用 | 主にプロジェクトリーダークラスが担当者の進捗確認に利用 |
このように、まずはマスタースケジュールを作成してプロジェクト全体の作業やイベントを漏れなく書き出し、それが終わったらマスタースケジュールに書き出した作業を分解してWBSを作成する手順となります。
家族旅行のマスタースケジュールとWBSで理解しよう
では、マスタースケジュールとWBSを家族旅行に当てはめるとどうなるでしょうか?
具体的に家族旅行のマスタースケジュールとWBSを作成してみたいと思います。
※前回の解説をまだ見ていない方は参照いただくと理解が深まると思います。
家族旅行のマスタースケジュール
※あくまでもイメージです。作業内容についての詳細な説明はありません。
※画像をクリックすれば拡大表示されます。
横軸に日付を並べます。
この日付のスケール(表し方)はいくつかあると思います。ここでは月を上旬/中旬/下旬と3つに分けていますが、もっと長い期間のプロジェクトでは月単位でもいいですし、期間の短いものでは週単位の方がいいでしょう。
日付のスケールは、プロジェクトの計画時に、そのプロジェクトの特性に応じて決めれば問題ありません。
縦軸にイベントやマイルストーン、必要となる作業工程を並べます。
イベントやマイルストーンは、Weblio 辞書では次のように記載されています。
イベント【event】
引用:Weblio 辞書|デジタル大辞泉|イベント【event】
1 出来事。催し物。行事。
マイルストーン【milestone】
引用:Weblio 辞書|デジタル大辞泉|マイルストーン【milestone】
3 システム開発やプロジェクト管理において、スケジュール上で特に重要な節目。成果物そのものを指すこともある。
制約条件になるようなイベント(還暦や来客日など)や決まっている予定や約束された期限(家族会議を行う日や旅行の予約期限など)をマイルストーンとして明記します。ここでは分かりやすいようにイベントとマイルストーンを分けて記述しましたが、同じような意味ですので1つにまとめてもいいでしょう。
作業工程は、取り組む時期が早いものから順に書き出すとよいでしょう。それぞれの作業は、ガントチャートで作業を実施する日付に合わせて記載すると見やすくなります。
人の視点は上から下、左から右に流して全体を見ますので、左上が一番最初に取り組む作業で、右下が最後に取り組む作業となるように配置しましょう。
家族旅行のWBS
家族旅行のマスタースケジュールに合わせてWBSを作成しました。
※こちらもイメージです。作業内容についての詳細な説明はありません。
大分類、中分類、小分類と作業をブレイクダウンして記述していくことで、作業単位別の状況がつかみやすくなります。
また、項目に番号を付けておけば作業項目が曖昧にならず誤認識を防止できます。
このWBSには記載していませんが、作業実績の右側に日単位(もしくは週単位)のカレンダーを作成し、作業期間をチャートで描くと直観的に進捗状況が把握できるようになります。
WBSでは、その作業を誰が実施するのか担当者を明確にします。
常に作業予定と作業実績を確認し、進捗に遅れがないか観察します。
現在の日付を6月5日と仮定すると、「1-3-1:旅のしおり作成」がまだ未着手となっており、予定より遅れていることが分かります。お父さんに状況を確認する必要がありそうです。
このように、具体的な作業に分解して担当者を割り当て、その状況を管理することでWBSの進み具合が一目で分かり、もし遅れている作業があれば迅速に対処することができます。
マスタースケジュールの書き方
家族旅行のマスタースケジュールを見て、マスタースケジュールがどういったものか理解いただけたかと思います。
家族旅行でやるべきことが一目でわかるようになり、いつまでに何をすればよいか把握できるようになりましたね。家族全員で共有することで、混乱せずに進められそうです。
では実際のシステム開発ではどのようなものになるでしょうか?
システム開発のマスタースケジュール(サンプル)
システム開発ではお客様がいますので、担当の列を追加して主担当がどちらにあるかを明確に記述しています。このように、どちらが主体となってやる作業工程か明確にすることで、役割と責任も理解しやすくなります。
想定としては、注文管理機能と出荷管理機能を持ったシステムを構築するプロジェクトです。一般的なシステム開発で出てくるであろう作業工程を列挙しています。それぞれの作業内容はここでは説明しませんが、ご自身が担当されるプロジェクトの参考になれば幸いです。
マスタースケジュールを書く時のポイント
繰り返しになりますが、マスタースケジュールはプロジェクトのベースラインとなるものです。ステークホルダーが共有することで全体の作業やイベントを理解でき、混乱せずにプロジェクトを進めることができます。
マスタースケジュールは、以下のポイントに気を付けて作成しましょう。
- スケジュールを俯瞰して全体が見れるように1枚にまとめる。
- マイルストーンに、制約条件になるようなイベント(保守切れ期日、サービス開始や停止日など)や決まっている予定、約束された期限(お客様との会議、契約期限、本稼働日など)を明記する。
- それぞれの作業に先行ー後続の繋がり(依存関係)がある場合は、それがわかるように例えば作業間を矢印でつなげて表示する。
- 作業はアプリケーション開発だけでなく、開発環境や本番環境のサーバやネットワーク環境などのインフラ、データ移行、切替の段取り作業も明記する。
- お客様が行う作業(マニュアル作成や教育、マスター設定など)も明記して、お客様自身が主体となって実施いただくことを共有する。
進捗状況を報告する時のポイント
マスタースケジュールは全体が俯瞰できるため、主にプロジェクトのお客様やプロジェクトマネージャーとの進捗確認に利用します。下図の例を参照してください。
進捗状況を報告する際は、現時点がどこなのか分かるように日付から縦に進捗線を引きます。(図の例では赤線を引いています)
もし予定通りに進捗していない場合は折れ線で現時点の進捗状態を記載します。
この例では、4月の報告1の時点では順調ですが、5月の報告2では出荷管理で進捗線が左側に折れて記載されています。これは、現在の予定に対して進捗率が約50%のため開発が遅れていることを表しています。この折れ線のことをイナズマ線と言います。
6月の報告3の時点では出荷管理の開発遅れが悪化していることがわかります。早急に対策が必要です。
その後、7月の報告4では対策の成果で出荷管理の遅れは解消しつつあり、8月の報告5では出荷処理も完了して、マスター管理は予定よりもイナズマ線が右側に折れていて進捗が進んでいることがわかります。
このように、進捗状況の報告ではイナズマ線で入れることで順調に進んでいるのか、遅れている作業はどれか一目で分かります。また、この例のように過去のイナズマ線を残すと、前回からの状況変化が分かり、遅延している場合は対策が取りやすくなります。
WBSの書き方
家族旅行のWBSの解説でも記載しましたが、WBSの目的は作業予定と作業実績を確認して進捗に遅れがないか観察することです。
作業状況を日々観察し、遅れが見つかった場合はすぐに対策を検討して軌道修正することが重要です。
そのためには、漏れなく作業を書き出す必要があります。
システム開発のWBS(サンプル)
マスタースケジュールに書き出した作業を分解してWBSを作成します。マスタースケジュールとの関連がわかるように、マスタースケジュールの作業項目の名称から細分化していきます。
下図の例を参照してください。上述のシステム開発のマスタースケジュールをベースにWBSを作成するサンプルです。
WBSを書く時のポイント
このように、要件定義でシステム化する機能を明確にします。規模が大きい場合は機能をサブシステム単位にまとめて整理します。
次の開発工程では、要件定義で確定した機能一覧をもとに作業を細分化します。サブシステムから機能へ、機能から作業工程へ、作業工程から作成する成果物へという具合にブレイクダウンしていくと簡単に作業分解できます。
この時、作業項目に漏れや重複がないかも気を付けて作成しましょう。
WBSの作成はとても重要な作業ですが、プロジェクトが複雑になれば時間もかかります。プロジェクトマネージャーひとりが作成すると作業の漏れや重複に気づか無いこともあるでしょう。
重要な作業の漏れはプロジェクトのコストやスケジュールに大きく影響しますので、決してひとりだけでWBSを作成せず、メンバーに協力を仰ぐことも大事です。
ですから、WBSの作成はプロジェクトメンバーに協力してもらったり、有識者にレビューしてWBSの完成度を高めましょう。
WBSのワークパッケージ
作業を細分化して書き出した最終の成果物のことを「ワークパッケージ」と言いいます。
ワークパッケージの粒の大きさ(作業工数)は、1週間程度でできる作業とするのが妥当です。ワークパッケージが1週間以上かかる作業の場合、1週間以内に作業が完了する程度になるまで繰り返し分解しましょう。
ワーク‐パッケージ【work package】
引用:Weblio 辞書|デジタル大辞泉|ワーク‐パッケージ【work package】
プロジェクト管理の計画手法の一つ、作業分割構成(WBS)における作業要素
ワークパッケージを1週間以内にすることで、進捗率の簡素化ができます。
ワークパッケージの期間が長いと進捗率も20%、35%、70%などと細かい値で報告したくなります。ワークパッケージの期間が短いと、着手したら進捗率は50%、作業完了は100%という具合に簡素化できるため報告側と管理側ともに楽になります。
また、進捗を管理するために定期的に進捗状況を確認する必要がありますが、ワークパッケージを1週間以内にすることで進捗報告も週次単位で行うことが効果的になるわけです。
WBSの作成はとても重要な作業です。WBSの作業が漏れるとプロジェクトのコストやスケジュールに大きく影響するため、精度の高いWBSを作成する方法を知ることが大事です。こちらでWBSの作業を書き出す方法を解説しています。よろしければお読みください。
次はしっかりしたプロジェクト体制づくり
作成したマスタースケジュールとWBSで、いつ、何を、誰が実行すればいいか全体の行動が見えてきたと思います。
引き続き、プロジェクト計画でやるべき11項目のガイドを解説します。これらをプロジェクト計画書にまとめ上げ、ゴールに向かってプロジェクトをスタートしましょう。
次回はプロジェクト体制について解説します。よろしければ次の記事もお読みください。